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東京地方裁判所 平成5年(ワ)20082号 判決 1996年1月23日

本訴原告・反訴被告(以下「原告」という。) 金子耕一

右訴訟代理人弁護士 満園武尚

同 満園勝美

同 塚田裕二

本訴被告(以下「被告」という。)株式会社武蔵総合スポーツランド

右代表者代表取締役 林富雄

右訴訟代理人弁護士 河合弘之

同 西村國彦

同 船橋茂紀

右訴訟復代理人弁護士 大川雅弘

本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。) 東京総合信用株式会社

右代表者代表取締役 松下武義

右訴訟代理人弁護士 海老原元彦

同 竹内洋

同 田路至弘

同 半場秀

主文

一  原告の被告株式会社武蔵総合スポーツランドに対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

二  原告の被告東京総合信用株式会社に対する請求を棄却する。

三  原告は被告東京総合信用株式会社に対し、金一一四三万二九一五円及び内金一一三三万九三一〇円に対する平成五年三月二七日から支払ずみまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じて、全部原告の負担とする。

五  この判決の第三項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(本訴)

1  被告株式会社武蔵総合スポーツランド(以下「被告武蔵」という。)に対して

(一) (主位的請求)

被告武蔵は原告に対し、金二三七一万八五〇〇円及びこれに対する平成三年八月三一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二) (予備的請求)

被告武蔵は原告に対し、平成三年八月三〇日付けゴルフ会員権購入契約について債務不履行解除に基づく原状回復及び損害賠償請求として金二三七一万八五〇〇円の金銭債務を負担していることを確認する。

2  被告東京総合信用株式会社(以下「被告東総信」という。)に対して

被告東総信は原告に対し、金五七四万六七〇〇円及びこれに対する平成五年二月二七日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告東総信(反訴)

主文第三項と同旨

第二当事者の主張

一  本訴事件について

1  請求原因

(一) 被告武蔵に対するもの

(1)  原告は、ゴルフ場の建設・経営などを業とする株式会社である被告武蔵との間で、平成三年八月三〇日、左記のとおりのゴルフ会員権購入契約を締結した。

ゴルフ場名称 ウィルソンゴルフクラブ鶴ヶ島

(旧名称 武蔵の森ゴルフ倶楽部)

開場予定 平成五年秋

入会金 金四一二万円(内消費税一二万円)

預託金 金一五五〇万円

(以上合計金一九六二万円)

(2)  原告は、右同日被告武蔵に対し、金四六二万円を直接支払うとともに、被告東総信を通じて金一五〇〇万円を支払った。

(3)  ところで原告は、被告東総信を通じて右金一五〇〇万円を支払うに際し、平成三年八月三〇日、株式会社である被告東総信との間で、左記のとおり立替払契約を締結した。

立替払金   金一五〇〇万円

手数料 金四〇七万八五〇〇円

印紙代       金二万円

返済方法 六〇回の分割払いとし、平成三年九月二六日限り金三四万二四〇〇円、その後五九回にわたり毎月二六日限り各金三一万七九〇〇円ずつ支払う。

遅延損害金 年二九・二パーセント

(4)  原告は、右(3) の立替払契約に基づき被告東総信に対し、平成三年九月二六日から平成五年二月二六日までの間に、合計金五七四万六七〇〇円を支払い、その残元本額は金一三三五万一八〇〇円となっている。

(5)  しかるに本件ゴルフ場は、平成五年八月に至るもその建設が進まず、開場予定から二年を経過する平成七年秋までにオープンされる見通しはなかった。

(6)  そこで、原告は被告武蔵に対し、平成五年八月一三日到達の書面で、ゴルフ場がオープンするまで予定よりも二年以上遅延するのは社会通念上許容される範囲を著しく逸脱するとして、履行遅滞を理由とする購入契約解除の意思表示をした。

(7)  よって、原告は被告武蔵に対し、(一)主位的に、契約解除に基づく原状回復及び損害賠償請求として、右(2) で直接払をした金四六二万円と右(4) の既払金五七四万六七〇〇円並びに未払残元本金一三三五万一八〇〇円の合計額金二三七一万八五〇〇円及びこれに対する平成三年八月三一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、(二)予備的に、右契約解除に基づく原状回復及び損害賠償請求として、被告武蔵は原告に対し右合計金二三七一万八五〇〇円の支払義務を負担していることの確認を求める。

(二) 被告東総信に対するもの

(1)  原告は、前記(一)(1) ないし(6) 記載のとおりの経過により、被告武蔵との間でゴルフ会員権購入契約の締結・預託金などの支払・開場遅延を理由とする同契約の解除を行い、また被告東総信との間で立替払契約の締結・分割金の支払とその停止などを、それぞれ行った。

(2)  原告と被告武蔵との間のゴルフ会員権購入契約及び原告と被告東総信との間の立替払契約は、手続的に一体であるから、信義則上及び割賦販売法三〇条の四の類推適用により、原告は被告東総信に対し、被告武蔵との間のゴルフ会員権購入契約の解除を主張できる。

(3)  そこで、原告は被告東総信に対し、平成五年八月一三日到達の書面で、立替払契約解除の意思表示をした。

(4)  よって、原告は被告東総信に対し、既払金五七四万六七〇〇円及びこれに対する最終支払日の翌日たる平成五年二月二七日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告武蔵の本案前の答弁と原告の反論

(一) 本案前の答弁

原告は、平成三年八月三〇日に被告東総信から金一五〇〇万円を借り受け、その借受金債務の支払を担保するため、本件ゴルフ会員権購入契約により原告が被告武蔵に対して有するに至ったゴルフ会員権(預託金返還請求権及び施設利用権等からなる権利)を譲渡担保に供し、被告武蔵もこれを承諾したから、右契約解除に基づく預託金返還請求権等を内容とする主位的請求については当事者適格を欠き、またその確認請求たる予備的請求も確認の利益を欠くものである。

(二) 原告の反論

右のように、本件ゴルフ会員権が原告の被告東総信に対する支払債務のため譲渡担保に供されていることは認めるが、その法律効果は争う。

3  請求原因に対する認否

(一) 被告武蔵

(1)  請求原因(一)(1) (2) の事実は認める。

(2)  同(一)(3) (4) の事実は不知。

(3)  同(一)(5) (6) の事実のうち、原告から契約解除の意思表示が到達したことは認めるが、その余は不知。

ゴルフ場オープン予定時期の多少の遅延は入会者も当然これを予定しているものであるから、被告武蔵は平成五年秋までにゴルフ場を開場すべき法的義務を負うものではない。なお、本件ゴルフ場はほぼ完成し、平成八年の一月には営業を開始できる運びとなっている。

(二) 被告東総信

(1)  請求原因(二)(1) が引用する同(一)の各事実のうち、(1) (2) は認める。(3) のうち立替払契約とする部分は否認する(同契約は単なる金銭消費貸借契約である)が、その余は認める。(4) は認め、(5) (6) は否認する。

(2)  同(二)(2) の事実は否認する。なお、ゴルフ会員権は割賦販売法にいう指定商品でないから同法三〇条の四の適用の余地はない。

(3)  同(二)(3) の事実は認める。

4  抗弁

(一) 譲渡担保(被告両名)

原告は平成三年八月三〇日に被告東総信から金一五〇〇万円を借り受け、その借受金債務の支払を担保するため、本件ゴルフ会員権購入契約により原告が被告武蔵に対して有するに至ったゴルフ会員権(預託金返還請求権及び施設利用権等から成る権利)を譲渡担保に供し被告武蔵もこれを承諾しているから、被告両名に対する各請求は理由がない。

(二) 帰責性の欠如(被告武蔵)

仮に本件ゴルフ場の開場遅延が被告武蔵の履行遅滞となる余地があるとしてもその遅延は訴外平成興発株式会社の森林不法伐採や埼玉県による一年の工事休止指導及び環境アセスメント指導等の、被告武蔵とは無関係の原因によるものであるから、被告武蔵には帰責性がない。

(三) 権利濫用その他(被告武蔵)

ゴルフ場の開発には、莫大な資金と長い時間、多数の関係者の関与が必要となるものであるところ、本件ゴルフ場は、長年の関係者の努力により平成七年一二月までにその工事がほぼ完了し、平成八年一月には営業を開始できる運びとなっているものである。もし原告の本訴請求が認められることとなると、被告武蔵の経営の存続自体が困難となり、プレー開始を待ちこがれる大多数の会員の利益を損ねることになるから、原告による本件契約解除ないし本件訴訟提起は権利の濫用として許されないというべきである。

また被告は本件契約に際し原告に対し会員証などを交付しているが、原告が契約解除を主張するのであれば、右会員証等と同時履行(引換給付)となるものである。

5  抗弁に対する認否

(一) 抗弁(一)の事実のうち、本件ゴルフ会員権が被告東総信に対し、金一五〇〇万円の債務のため譲渡担保に供されたこと(但し、金銭消費貸借債務でなく立替金支払債務のためである。)は認めるが、その余は否認する。

(二) 同(二)(三)の事実は否認する。

二  反訴事件について

1  請求原因

(一) 被告東総信は原告に対し、平成三年八月三〇日、左記約定で金一五〇〇万円を貸し渡した。

弁済方法 平成三年九月二六日限り金三二万二四〇〇円を支払い、その後平成三年一〇月以降平成八年八月まで毎月二六日限り各金三一万七九〇〇円ずつ支払う。

利息    年九・九パーセント(アドオン方式二七・一九パーセント)

遅延損害金 年二九・二パーセント

特約    一回でも支払を怠ったときは期限の利益を喪失する。

(二) しかるに原告は平成五年三月二六日以降の支払をしないので、被告東総信は原告に対し、貸金残元本金一一三三万九三一〇円及びこれに対する平成五年二月二七日から同年三月二六日までの約定利息金九万三六〇五円(以上合計金一一四三万二九一五円)並びに右残元本金一一三三万九三一〇円に対する平成五年三月二七日から支払ずみまで約定利率年二九・二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

否認する。締結された契約は立替払契約であり、その契約は被告武蔵のゴルフ場開場の履行遅滞を理由として、平成五年八月一三日解除されたものである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴事件について

一  本件ゴルフ会員権への譲渡担保権設定と本訴請求の可否

請求原因(一)(1) (ゴルフ会員権購入契約)・(2) (入会金・預託金の支払)・(6) のうちの契約解除の意思表示の各事実はいずれも当事者間に争いがない。一方、後記第二で認定のとおり、被告東総信は原告に対し右購入契約に必要な金一五〇〇万円を貸し渡し(立替払契約ではない。)、その返済を担保するため、原告は被告東総信に対し右購入契約により取得したゴルフ会員権を譲渡担保に供し(譲渡担保提供の事実は当事者間に争いがない。)、かつ原告は被告東総信に対し平成五年三月二七日以降支払遅延に陥っていることが認められる。

ところで、ゴルフ会員権が譲渡担保に供され債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合、対外的にはゴルフ会員権を処分する機能は債権者(譲渡担保権者)に移転しているのであるから、譲渡担保契約の趣旨からして設定者に留保されたものと認められる使用価値的権利の行使(たとえばゴルフ場でプレーをする権利等)を除き、ゴルフ会員権の交換価値に影響を及ぼす可能性のあるゴルフ会員権購入契約についての解除権の行使等は、債権者(譲渡担保権者)の同意があるときに限ってこれを行使することができると解するのが相当である。

これを本件についてみると、本件ゴルフ会員権は前記のとおり原告から被告東総信に対し元本金一五〇〇万円の借受金債務のため譲渡担保に供され、原告は被告東総信に対し平成五年三月二六日以降その支払遅延に陥っているのであり、一方、原告の本訴請求は、被告武蔵に対する主位的請求と予備的請求及び被告東総信に対する請求のいずれであっても、本件ゴルフ会員権購入契約の解除を前提とするものであり、しかも原告は同解除につき債権者(譲渡担保権者)である被告東総信の承諾を得たことを主張立証しない(弁論の全趣旨によれば、右承諾はなされていないことが推認される。)から、被告武蔵の開場遅延が債務不履行としての履行遅滞になるか否かを論ずるまでもなく、原告がなした契約解除の意思表示により契約解除の効力が生ずる余地はない。

二  以上によれば、その余について判断するまでもなく(なお、ゴルフ会員権は割賦販売法二条四項、同法施行令一条にいう指定商品ではないから、被告東総信に対する請求につき同法三〇条の四が適用される余地はなく、また本件の場合類推適用を肯定するのも相当でない。)、原告の被告両名に対する本訴請求はいずれも理由がない(被告武蔵の主張する当事者適格や確認の利益という訴訟要件の問題でなく、本案の問題である。)。

第二反訴事件について

一  丙第一号証の一、二、第二ないし第四号証、証人家里宏の証言及び弁論の全趣旨によれば請求原因(一)の事実及び原告は平成五年三月二七日以降支払遅延に陥っていることが認められる。

二  原告は、立替払契約の解除を主張するが、前記認定のとおり原告と被告東総信との間で平成三年八月三〇日に締結されたのは金銭消費貸借契約であるから、その主張自体失当である。

三  以上によれば被告東総信の反訴請求は理由がある。

(裁判官 中野哲弘)

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